日田を含む筑後川水系では、毎年5月20日に九州で最も早く鮎漁の解禁を迎えます。解禁から6月14日までは、釣り人に満足いくまで鮎釣りを楽しんでもらいたいため「釣り」以外の漁は禁止されていますが、6月15日になると、いよいよ網漁も解禁となり、日田の鮎漁が本格化します。ちなみに網漁は、漁業協同組合に所属する組合員さんだけに許可された漁法です。この方々を、いわゆる「川漁師さん」と呼びます。
ところで一口に「網漁」といっても、日田では主に2通りの漁があるのをご存知ですか?
川に網を横断させて、鮎を追い込む「建網漁(たてあみりょう)」と、鮎がいそうなポイントに、網を円形に広げてかぶせ捕る「投網漁(とあみりょう)」があります。
今回は、網漁の名人・吉田能晴(よしだよしはる)さんの建網漁をレポート!
その熟練した腕前を通じ、建網漁の何たるやをご紹介します。
鮎は、子供時代は光を好み(光に集まる)ますが、不思議なことに大人になると光を嫌う(光を避ける)ようになります。この習性を利用して建網漁を行います。
①まずはポイントの選定。鮎が潜んでいそうなポイントを見つけておきます。ちなみに、漁をする場所は漁師さん同士が暗黙の了解で重複しないように、それぞれポイント(なわばり)を持っているそうです。
②日暮れが近づくと、ポイントの下流側に、川を横断するように網を張っていきます。網の枚数は人や状況によってまちまちですが、この日は3枚を仕掛けました。
③網を張り終える頃には、あたりは真っ暗に。このタイミングで、網を張った上流側から、船頭にライトを設置した船を出します。船には長い竹竿を持った吉田さんが仁王立ちしています。
④竹竿をたくみに操りながら、川をジグザグに蛇行して網を仕掛けた方向に下っていく吉田さん。ときおり、水面を竹竿で強くたたきながら進んでいきます。水面をたたくことによって寝ている鮎を起こし、起きた鮎はライトの光に追いやられて下流へと逃げていきます。逃げる先には川を横断する網が待ち受けています。
⑤網を上げると、追いやられたたくさんの鮎が網にからめとられています。これを1尾ずつ外していくのですが、鮎は劣化が早い魚です。鮎を傷つけないように丁寧に、なおかつ素早く外し、氷水に入れて絞める作業。これは熟練者にしかできません。
⑥夜20時からはじめて、全作業が終了したのは、なんと24時。すごく体力を使います。この日はおよそ80尾の鮎を漁獲することが出来ました!
川で捕れた鮎は、日田では「地鮎(じあゆ)」と呼ばれ、やはり鮎独特のさわやかな香りが強く感じられます。飲食店などに発送されて、とびきり美味しい料理となりますよ!日田市内でも、地鮎が食べられるお店をぜひ見つけてみてくださいね。
漁を取材して驚いたのは、吉田さんが不安定な船の上に立ち上がって、なおかつ長い竹竿を持った状態で船をたくみに操る姿でした。吉田さんも始めたてのころは、何度も川に落ちたことがあったそうですが、経験をつめば容易にこなすことができるそうです。流石は名人。私なら開始数十秒で川に転落するでしょう。